転倒

事故だけは起こすまいと思っていたのに、やってしまった。


夜、お風呂に入れていた時の出来事。
ゲンキは、もはや風呂場でもじっとしていないので、浴槽の縁につかまり立ちさせて体を洗ったり、
苦肉の策で自分なりに工夫をしているつもりだった。
しかし、シャンプーを流す時は、頭の上からバシャーンとお湯をかけると大泣きするので、
膝の上に乗せて流さねばならない。
膝の上というか、母Yが体育座りをして、そこに座らせて、母Yの足を背もたれにしているのだが、
流し終わる前に這い出してハイハイを始める。
石鹸は滑るから動いちゃダメだよ、と言い続けているけれど、もちろんわかっちゃいない。
母Yが片手でシャワーを持って、片手でガーゼを取ろうとした時、
手を滑らせたゲンキが、前のめりで風呂のドアの縁に顔面から激突。


やってしまった。
一瞬で大泣き。
まず抱き上げて、なだめる。
なだめながら、怪我を点検。
おでこ付近をしたたかに打ったようだが、切り傷や裂傷はないみたい。
ゲンキは、グスングスン言いながら、普通に落ち着く。
とりあえず、石鹸を流してしまわないと。
膝の上に乗せてシャワーをかけていると、そのまま寝てしまった。
まさか打ち所が悪かったんじゃ??
打ったばかりなので不安になるが、以前も風呂場で爆睡したことがあるし、
その時の様子と似ているので、たぶん大丈夫なはず。


そうこうするうちに、右眉の上が赤黒くなってきた。
ここを打ったのか。目じゃなくてよかった。
おでこの右端の生え際の当たりも、ちょっと赤い。
右側に重心がかかっていたんだな。
冷静に分析しつつ、父Jを呼んで状況を説明。
ゲンキをお風呂から連れて行ってもらう。
しばらく様子を見て、救急に連れて行くかどうか判断しないと。


母Yがお風呂から上がると、ゲンキはニコニコしながらタオルにくるまれていた。
ほっ、大丈夫そうだ。
「お母さん、この子、どこ打ったの?」
多分、おでこのあたりだと思うけど。
私も後上方から見てたから正確にはわからないです。
「目、打ってない?」
目?
「右目に傷が入ってる」
えっ??嘘でしょう??
「ほら見て」
ニコニコしているゲンキの右目の、向かって左上から右下に、すっと斜めに引いたような白い線。
まさか。


即座に電話を取る母Y。
区の子供専門救急診療所に連絡する。
状況を説明すると、眼や外科の対応はできないので、成育医療センターの番号を教えられる。
成育医療センターに電話。
手短に、冷静に、状況を伝える。
もうすぐ10ヶ月の0歳児です。
先ほど、お風呂場で転倒しました。
右眉の上に腫れがあり、右目の眼球に傷がついているようなのですが、
これから診ていただけますでしょうか。
「この時間は、小児内科の対応しか出来ないので”来てもらっても困ります”」。
はい??
我が耳を疑う。
救急診療所の紹介でお電話差し上げているのですが、と伝えると、
「そちらとウチは何の関係もありませんから」。
ああ、そうですか。
そんな言い方しかできない病院に連れて行っても時間の無駄だ。
もう1度、救急診療所に電話しよう。


成育医療センターに断られた旨を伝えると、
救急病院を紹介してくれる電話案内サービス「ひまわり」を紹介される。
即、電話。
音声対応だ。
いちいちガイダンスを聞きながら操作するのがもどかしい。
ゲンキの右眉の上は、たんこぶのように腫れてきた。
時間がもったいない。
ガイダンスに沿って操作したあげく、結局オペレーター対応になった。
眼は専門医でないと診察できないとのこと。
午後10時まで診察している区外の眼科を紹介してくれる。
しかし、そこでは右眉上の腫れは診てもらえない。
腫れを診てもらえる病院も紹介していただけないでしょうか。
顔面だと整形外科になるという。
近隣の大きい救急病院を3軒教えてもらう。
お礼を言って、電話を切る。


「お母さん」と父J。
はい。どの病院にしますか。とりあえず近場で一番大きい至誠会に行きましょうか。
「眼の傷、消えてる」
え?
「もうないよ、傷」
ちょっと見せて下さい。
あら、ありませんね。
ていうか、あれは傷じゃなかったんだ。
ええと、長〜い目やに?
「だね」
あ〜、よかった〜〜〜。
実はそうじゃないかと思ってたんだけど、
気が急いて、さすがにそこまで冷静に確認できなかったよ。


この間、15分くらい。
ご機嫌だったゲンキは、眠いのとお腹が空いたのとで騒ぎ始めた。
とりあえずパイだ。
授乳しながら、至誠会に電話。
同じように状況を伝える。
「そうすると、整形外科ということになりますが、よろしいでしょうか」
はい、結構です。
「では当直の医師に代わりますので、ご相談下さい」
とても丁寧な対応。
ゲンキの氏名と生年月日を伝えてから、先生に代わってくれる。


このような状況ですが、診察していただいたほうがよろしいでしょうか。
「そうですねえ、赤ちゃんは痛いと自分で言えませんからねえ。
こういうケースの場合、判断するには嘔吐ですね。
何度も吐くようなら、すぐ病院で診てもらうほうがよいでしょう。
その場合は、脳外科になります」
嘔吐がなければ、様子を見て大丈夫ですか?
「だと思いますよ。とりあえず、たんこぶを冷やすくらいでいいんじゃないでしょうか」
冷却シートとかでもいいんでしょうか。
「う〜ん、僕なら氷を使いますね。
ああいうシートはかぶれる場合があるから、赤ちゃんにはよくないかもしれません」
よくわかりました。お忙しいところ、ありがとうございました。
お礼を言って、電話を切る。
受付の男性も、当直の先生も、親身で丁寧。
成育医療センターとは大違いの対応だった。
次に何かあったら、至誠会で診てもらおう。
重病でない限り、成育には絶対行くまい。
そういえば、成育医療センターで重症の幼児に画鋲を飲ませた事件があったよね。
あれ、院内の犯行なんだそうだ。もみ消されてたけど。
やっぱり成育には行かない。


パイ後、グレムリン化して、ハイハイで動き回るゲンキ。
この様子なら、たぶん大丈夫だ。
パジャマに着替えさせて、父Jに寝かしつけしてもらって就寝。
す〜す〜寝息を立てて熟睡している。
夜中も何度か様子を見たが、寝苦しい様子もなく、問題なかった。
大事にいたらなくて、本当によかった。


それにしても、母Y反省。
明らかに、人為的ミスだ。
このところ寝不足で注意力が散漫になっているせいかもしれない。
かといって、押さえつけてお風呂に入れるわけにもいかず。
どうすればいいんだろうなあ。