洗濯物

ゲンキが大好きな、裏のお宅の洗濯物。
毎朝、着替えを済ませるとまず一番に出窓の障子を開けて、裏のお宅のベランダを確認する。
のだが、裏のお宅に洗濯物が干されなくなってから、もう2週間近く経ってしまった。
今日も、がっかりしてうつむくゲンキ。
あんまり気落ちしていると、かわいそうになってくるなあ。


2月の連休を境に干されなくなったので、初めは旅行に行かれたのだと思っていた。
連休が終わっても干されないので、これはシーズンオフの海外旅行に違いないと読んでいた。
しかし、いくらなんでも長すぎる。
「病気で入院されたんだろうか」と父J。
そうかもしれませんね。
でも、お母さんが入院されたなら、誰かが代わりにお洗濯すると思いますよ。
まったく干されない、っていうのはちょっと。


「心配だなあ」
裏のお宅に行って、聞いてきますか。
「なんて?」
ウチの息子、お宅の洗濯物が大好きなので、毎日心配しています。何かあったんですか?って。
「それじゃ変態みたいじゃないか」
あ、そうか。
「ちゃんと<ウチの1歳の息子が>って年齢言わなきゃダメだよ」
わかりました。
「でも面識ないのに直接聞くのもなんだし、事件かもしれないから、お巡りさんに聞いてみるってのはどう?」
そうですねえ、それも一案ですね。


と、他人様のお宅の洗濯物で、真剣に家族会議をするロック一家。
いいのか、それで。


そして今日。
朝食の支度をしていると「お母さん!」と父Jに呼ばれる。
どうしました?
「人がいた!」
裏のお宅に?
「うん、姿は見えなかったけど、カーテンが開いた!」
じゃ、いらっしゃいますねえ。
「もしかしたら、今日は干されるかもしれないよ」
はい、気をつけて見ておきます。


本日、快晴の洗濯日和。
やはり裏のお宅に洗濯物はなかった。
人はいる。しかし洗濯物はない。
これは一体。


あっっっ!!!!!!!
わかった!!!!!!!


お父さん!
「何ですか?」
裏のお宅の洗濯物の謎が解けましたよ。
「裏の人に会ったの?」
違いますよ。
「じゃなんで?」
だって、人がいて、晴れていて、洗濯物がないってのは。


ずばり、裏のお宅の人は花粉症です。
「へ?」
間違いないです。ちょうど花粉が飛び始めた頃からですから。
「本当かなあ」
本当ですってば。
おいらが自分の洗濯物を外に干さなくなった時期と一緒ですもん。
「そっかあ〜事件じゃなくてよかったね」


というわけで、ゲンキよ、次に裏のお宅の洗濯物が見られるのはあと2ヶ月先だ。
それまではウチの洗濯物で我慢しなさい。
「ん」
わかったのか、わかっていないのか、殊勝にうなづくゲンキなのだった。